2025年5月に行われた伊東市長選挙の結果は、多くの市民にとって衝撃的なものでした。選挙の速報では新人が当選し、大きな変化を予感させましたが、その後の展開は誰もが予想しない方向へと進んでいきます。
この選挙で対立した候補者、特に当選した田久保真紀氏と現職であった小野達也氏の戦いは、伊東市の未来を左右するものでした。しかし、選挙公報に記載された当選者の経歴、とりわけ大学卒業という学歴が、後に深刻な詐欺疑惑へと発展します。この問題は単なる疑惑に留まらず、刑事事件としても扱われ、市長の辞職を巡る大きな騒動となりました。
この記事では、関心が高まった選挙の投票率や背景から、学歴問題の発覚、そして現在に至るまでの市政の混乱について、一連の流れを分かりやすく解説します。
この記事を読むことで、以下の点について理解が深まります。
- 2025年伊東市長選挙の詳しい結果と投票率
- 当選した田久保市長の経歴と選挙公約
- 学歴詐称疑惑の発覚から事件化までの全経緯
- 辞職勧告から現在までの市政の動向と今後の課題
2025年伊東市長選挙結果の速報と概要

- 開票速報!田久保真紀氏が初当選
- 伊東市長選の候補者はどんな人だった?
- 敗れた現職・小野達也氏の訴えとは
- 投票率は前回を上回り関心高まる
- 選挙公報に記載された学歴情報
開票速報!田久保真紀氏が初当選
2025年5月25日に投開票が行われた伊東市長選挙は、新人で元市議の田久保真紀氏(55)が、3選を目指す現職の小野達也氏(62)を破り、初当選を果たしました。
開票結果
候補者名 | 年齢 | 党派 | 新旧 | 得票数 | 当落 |
田久保 真紀 | 55 | 無所属 | 新 | 14,684票 | 当 |
小野 達也 | 62 | 無所属 | 現 | 12,902票 | 落 |
田久保氏は、現職の小野氏に1,782票の差をつけての勝利となります。この結果は、市政の変革を求める市民の声が反映されたものと考えられます。
選挙戦で田久保氏は、主に現市政が推進していた新図書館の建設計画の見直しを大きな争点として掲げました。このほか、観光と防災に強いまちづくりを訴え、多くの市民から支持を集めることに成功した形です。
当選後のインタビューで田久保氏は、「伊東市を変えてほしいという声を多く聞いた。市民の声を聞くシステムをしっかり作り、合意形成をとりながら、みんなでまちづくりをしていく姿勢を大事にしたい」と抱負を述べています。
伊東市長選の候補者はどんな人だった?
今回の伊東市長選挙は、対照的な経歴を持つ2人の候補者による一騎打ちとなりました。
田久保真紀氏(当選)
新人の田久保真紀氏は、千葉県出身の55歳です。市議会議員を2期務めた後、市長選へ挑戦しました。彼女の経歴は多彩で、バイク便ライダーや営業職、広告業界での独立、カフェ経営など、様々な仕事を経験しています。この経験から培われた「庶民目線」を自身の強みとして掲げ、「市民ファースト」を訴えて政界入りしました。趣味もバイクやアニメ鑑賞など多岐にわたります。
選挙戦では、現市政が進める大型プロジェクトへの見直しを強く主張し、市政の刷新を求める層の受け皿となりました。
小野達也氏(落選)
現職だった小野達也氏は、62歳。静岡県議を3期務めた後に市長に就任し、今回3期目を目指していました。政治家としての信条は「人の意見をよく聞く」ことで、「人に対して優しい街づくり」を掲げてきました。父の急死を乗り越え、干物製造販売会社を起業した経験を持ち、これが政治家としての糧になっていると語ります。ひもの開き日本一大会で2度優勝した腕前を持つなど、地元に根差した活動も特徴です。
選挙戦では、これまでの実績と市政の継続性を訴えましたが、変革を求める声の前に涙をのむ結果となりました。
敗れた現職・小野達也氏の訴えとは
3選を目指しながらも、新人の田久保氏に敗れた小野達也前市長。彼は2期8年にわたり伊東市政を率いてきました。
小野氏が選挙戦で主に訴えていたのは、これまでの実績に基づいた市政の継続と発展です。特に、子育て支援や教育政策の充実をアピールし、安定した市政運営を継続することの重要性を説いていました。
また、選挙の大きな争点となった新図書館建設計画については、市の文化振興や市民の学習機会の拠点として必要であるとの立場を崩さず、計画の推進を公約に掲げていました。この計画は建設に約42億円もの費用が見込まれており、この是非が市民の判断を二分する大きな要因になったと考えられます。
小野氏は自民党と公明党の推薦を受けていましたが、伊東市では30年以上自民党系の市長が続いていたこともあり、昨今の政治状況も相まって、長く続いた流れを変えたいと願う一部の有権者が、対立候補である田久保氏に票を投じた可能性も指摘されています。
退任の日には、「続けてきた流れを必ず取り戻す」と述べ、再起への意欲も見せていました。
投票率は前回を上回り関心高まる
今回の伊東市長選挙の投票率は49.65%でした。これは、2021年に行われた前回の市長選挙の投票率44.39%を5.26ポイント上回る結果です。
この投票率の上昇は、市民の選挙への関心が高かったことを示しています。その背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、最大の要因は、前述の通り、約42億円をかけた新図書館の建設計画の是非が明確な争点となったことです。現職の小野氏が計画推進を掲げたのに対し、新人の田久保氏が計画中止・見直しを訴えたことで、有権者にとって政策の違いが非常に分かりやすくなりました。
また、伊豆高原で計画されている大規模太陽光発電所(メガソーラー)の問題も、市民の関心事の一つでした。田久保氏は、このメガソーラー計画の白紙撤回も公約に掲げており、自然環境保護に関心の高い層の支持を集めた可能性があります。
このように、大型公共事業や環境問題といった、市民生活に直結する具体的なテーマが争点となったことが、有権者の投票行動を促し、結果として投票率の上昇につながったと言えるでしょう。
選挙公報に記載された学歴情報
選挙期間中に有権者に配布される選挙公報は、候補者の経歴や政策を知るための重要な情報源です。今回の伊東市長選挙で、田久保真紀氏の選挙公報や関連の報道記事では、その最終学歴が「東洋大学法学部卒業」と紹介されていました。
有権者の多くは、この公報に記載された情報を基に候補者の人物像を判断します。学歴は、候補者の知識や専門性を測る一つの指標として捉えられることが少なくありません。
しかし、この「大学卒業」という経歴が、当選後に大きな波紋を呼ぶことになります。市議会や市民から、この学歴が事実と異なるのではないかという指摘がなされ、後の学歴詐称疑惑へと発展していくのです。
この時点では、ほとんどの市民が公報の記載を信じていましたが、これが市政を揺るがす大問題の入り口となっていたことは、まだ知る由もありませんでした。
伊東市長選挙結果後の学歴詐称疑惑

- 当選後に浮上した田久保市長の経歴問題
- 東洋大学卒業ではなく「除籍」と判明
- 市長が学歴詐欺を指摘された背景
- 刑事告発もされた一連の事件の経緯
- 一転して辞職の意向を撤回
- 伊東市長選挙結果とその後の混乱まとめ
当選後に浮上した田久保市長の経歴問題
田久保市長の当選から間もない6月初旬、事態は急変します。伊東市の全議員に対し、市長の学歴詐称を指摘する匿名の文書、いわゆる「怪文書」が送付されたのです。
この文書がきっかけとなり、選挙公報などで「東洋大学卒業」とされていた田久保市長の経歴に、疑いの目が向けられることになりました。当初、田久保市長は疑惑を否定していましたが、市議会からの説明要求に対し、卒業を証明する客観的な書類を速やかに提示することはありませんでした。
特に問題視されたのは、市長が過去に市議会議長らに対して「卒業証書」とされる書類を見せていた点です。疑惑が浮上した後、議会がこの書類の正式な提出を求めたものの、市長はこれを拒否。この対応が、さらに疑惑を深める結果を招いてしまいました。
市民や議会の間で不信感が募る中、市長は追い詰められていくことになります。この経歴問題は、単なる個人のプライバシーの問題ではなく、公人としての信頼性、そして選挙の公正性に関わる重大な問題へと発展していきました。
東洋大学卒業ではなく「除籍」と判明
疑惑が深まる中、田久保市長は7月2日の記者会見で、自身の学歴について重大な事実を公表しました。それは、最終学歴が「卒業」ではなく、「除籍」であったという衝撃的な内容でした。
「卒業」と「除籍」の違い
ここで、「卒業」と「除籍」の違いを明確にしておく必要があります。
- 卒業: 大学が定める全ての課程を修了し、所定の単位を取得した学生に対して、大学がその課程の修了を認定することです。卒業生には学位が与えられ、卒業証書が授与されます。
- 除籍: 学生が学費の未納や長期間の在学、あるいは不正行為などの理由により、大学側が一方的に学生としての身分を抹消する処分のことです。自主的に退学する「中退」とは異なり、懲戒的な意味合いを持つ場合があります。
田久保市長は会見で、「6月28日に大学の窓口で確認するまで、自身は卒業したものと認識していた」と説明しました。長年、卒業していると信じ込んでいたが、今回初めて除籍の事実を知った、というのが市長の主張です。
しかし、この説明に対しては多くの疑問の声が上がりました。特に、卒業したと認識していたのであれば、なぜ卒業証書を正式に提示できないのか、という点が厳しく追及されることになりました。この会見は疑惑の解消には至らず、むしろ問題をさらに複雑化させる結果となったのです。
市長が学歴詐欺を指摘された背景
田久保市長の学歴問題が、単なる「経歴の勘違い」では済まされず、「学歴詐欺」とまで厳しく指摘される背景には、いくつかの重要なポイントがあります。
第一に、公職選挙法との関連です。公職選挙法では、当選を得る目的で候補者の経歴などに関して虚偽の表示をすることを禁じています(虚偽表示罪)。市長自身は「選挙中に自ら積極的に学歴を公表していない」と主張していますが、選挙公報や報道を通じて「大学卒業」という情報が有権者に広く伝わっていたのは事実です。この情報が投票行動に影響を与えた可能性は否定できず、法の趣旨に反するとの見方が根強くあります。
第二に、前述の通り、市議会議長らに見せたという「卒業証書」の存在です。市長は疑惑発覚後、この書類の提出を拒み続けています。もし、卒業の事実がないにもかかわらず、卒業を証明するかのような書類を提示していたとすれば、それは意図的な詐称行為と見なされても仕方ありません。会見に同席した弁護士は、この書類を「捜査機関への提出も拒否する」との考えを示しており、疑惑を一層深めています。
これらの点から、市長の行為は単なる勘違いではなく、有権者や議会を欺く意図があったのではないか、という厳しい目が向けられているのです。市民の代表である市長という公職の信頼性を根底から揺るがす問題として、多くの批判を招いています。
刑事告発もされた一連の事件の経緯
田久保市長の学歴問題は、市政の混乱にとどまらず、法的な問題、つまり刑事事件へと発展しました。
疑惑が表面化した後、伊東市議会は地方自治法第100条に基づき、強い調査権限を持つ「調査特別委員会(百条委員会)」を設置しました。百条委員会は、市長に対し、証人として出席し証言すること(証人尋問)と、問題となっている「卒業証書」とされる書類の提出を求めました。しかし、市長はいずれの要求も拒否。正当な理由なく出頭や証言を拒否した場合、禁錮や罰金が科される可能性があり、議会側は刑事告発も視野に入れる強硬な姿勢を見せました。
さらに、市議会とは別に、市民団体などが公職選挙法違反(虚偽表示罪)の疑いで、田久保市長に対する告発状を警察に提出し、受理されています。これにより、警察による正式な捜査が開始されることになりました。
市長の知人を名乗る人物が百条委員会で「(市長本人から)大学は卒業していないと聞いていた」と証言するなど、市長にとって不利な状況も生まれています。このように、議会による追及と、司法による捜査という二つの側面から、問題の真相解明が進められることになったのです。
一転して辞職の意向を撤回
学歴詐欺疑惑を巡る混乱のさなか、田久保市長の対応は二転三転し、市民や議会をさらに困惑させました。
7月7日の会見で、市長は「市民や関係者に迷惑をかけた」と謝罪し、一度市長を辞職した上で、改めて市長選挙に立候補し、市民の信を問う意向を表明しました。この時点では、早期の辞職と出直し選挙によって事態の収拾を図るものと見られていました。
しかし、その約3週間後である7月31日の会見で、市長はこの辞職の意向を事実上撤回。「新図書館建設計画の中止と伊豆高原メガソーラー計画の白紙撤回という公約を実現するため」と理由を述べ、市長職にとどまる考えを明らかにしたのです。
この突然の方針転換に対し、市議会からは「『田久保劇場』をいつまで続けるのか」と厳しい批判の声が上がりました。市議会はすでに、市長に対する辞職勧告決議を全会一致で可決しており、市長の続投表明は、議会との全面対決の姿勢を示すものとなりました。
「発言が二転三転したことは私の未熟さ」と市長自身も認めつつ、支持者からの「改革をここで終わらせるな」という声に後押しされたと説明しましたが、政治家としての資質を問う声は、ますます強まる結果となっています。
伊東市長選挙結果とその後の混乱まとめ
この記事で解説してきた、2025年伊東市長選挙の結果と、その後に続く一連の混乱について、重要なポイントを以下にまとめます。
- 2025年5月25日の伊東市長選挙で新人の田久保真紀氏が初当選
- 現職の小野達也氏を1,782票の差で破る
- 選挙の大きな争点は新図書館建設計画の見直しだった
- 投票率は49.65%で前回選挙を5.26ポイント上回った
- 当選後、田久保市長の学歴詐称疑惑が浮上
- 選挙公報などで「東洋大学法学部卒業」と紹介されていた
- 市長は会見で卒業ではなく「除籍」だったと説明
- 「除籍の事実は2025年6月28日に大学で初めて知った」と主張
- 市議会は真相究明のため強い調査権限を持つ百条委員会を設置
- 市長は百条委員会への証人尋問や関連資料の提出を拒否
- 市民団体などから公職選挙法違反の疑いで刑事告発され受理
- 2025年7月7日、一度は辞職して出直し選挙に臨む意向を表明
- しかし同月31日、公約実現を理由に辞職の意向を事実上撤回
- 市議会はすでに市長に対する辞職勧告決議を全会一致で可決済み
- 市政は依然として混乱状態にあり、今後の動向が注目されている